大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)4510号 判決 1980年12月24日
原告
秋田忠義
(ほか二名)
原告ら訴訟代理人弁護士
蒲田豊彦
同
河村武信
被告
株式会社商大自動車教習所
右代表者代表取締役
谷岡剛
(ほか二名)
右被告三名訴訟代理人弁護士
香月不二夫
(ほか二名)
被告
丸尾忠彦
同被告訴訟代理人弁護士
杉山博夫
(ほか一名)
被告
谷生寿身
(ほか一名)
右被告両名訴訟代理人弁護士
香月不二夫
(ほか二名)
被告
小路国明
同被告訴訟代理人弁護士
香月不二夫
(ほか一名)
主文
一 被告株式会社商大自動車教習所、同宇野幸三、同小路国明は、連帯(不真正連帯)して、原告秋田忠義に対し金七万一五一六円及び内金六万一五一六円に対する被告株式会社商大自動車教習所及び被告宇野幸三は昭和四九年一〇月四日から、被告小路国明は昭和五三年三月二一日から、内金一万円に対する右被告三名とも本裁判確定の日の翌日から、それぞれ右各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告白倉孝行に対し、株式会社商大自動車教習所は、金二万五〇〇〇円及び内金二万円に対する昭和四九年一〇月四日から、内金五〇〇〇円に対する本裁判確定の日の翌日から右各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、被告岡田充弘及び同丸尾忠彦は、連帯(不真正連帯)して金一万二五〇〇円及び内金一万円に対する被告岡田充弘は昭和四九年一〇月四日から、被告丸尾忠彦は昭和四九年一〇月五日から、内金二五〇〇円に対する右被告両名とも本裁判確定の日の翌日から右各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
三 原告三谷良平に対し、被告株式会社商大自動車教習所は、金二万五〇〇〇円及び内金二万円に対する昭和四九年一〇月四日から、内金五〇〇〇円に対する本裁判確定の日の翌日から右各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、被告丸尾忠彦及び同谷生寿身は、各金一万二五〇〇円及び内金一万円に対する被告丸尾忠彦は昭和四九年一〇月五日から、被告谷生寿身は昭和四九年一〇月四日から、内金二五〇〇円に対する右被告両名とも本裁判確定の日の翌日から、右各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
四 原告らの前記各被告らに対するその余の請求及び被告小路貞一に対する請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告株式会社商大自動車教習所の負担とし、その一を被告宇野幸三、同丸尾忠彦、同谷生寿身、同小路国明らの負担とし、その五を原告秋田忠義の負担とし、その三を同白倉孝行、同三谷良平らの各負担とする。
六 この判決は第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、連帯して、原告秋田忠義に対し金六一万一五一六円、原告白倉孝行及び原告三谷良平に対し各金一二万円、並びにこれらに対する被告丸尾忠彦は昭和四九年一〇月五日から、被告小路貞一は同年一二月二〇日から、被告小路国明は昭和五三年三月二一日から、その余の被告らは昭和四九年一〇月四日から、右各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項につき仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
(一) 原告秋田忠義(以下原告秋田と略称する)は、自動車教習所において働く労働者をもって組織され、大阪府守口市大日町一丁目六番地に組合事務所(本部)を置き、企業別に分会を置く、個人加盟の総評全国一般労働組合全自動車教習所労働組合(以下組合と略称する)の執行委員かつ被告株式会社商大自動車教習所(以下被告会社と略称する)の技能指導員であり、原告白倉孝行(以下原告白倉と略称する)は、同組合の執行委員、原告三谷良平(以下原告三谷と略称する)は、同組合の書記長であったものである。
(二) 被告会社は、自動車運転免許証取得のための実技並びに学科の教習を業とする株式会社であり、被告宇野幸三(以下被告宇野と略称する)は、被告会社の総務課課長補佐、被告岡田充弘(以下被告岡田と略称する)は、被告会社の総務課主任、被告丸尾忠彦(以下被告丸尾と略称する)は、被告会社の教習課所属アルバイト受付係、大阪商業大学の学生、被告谷生寿身(以下被告谷生と略称する)は、被告会社の見習指導員、被告小路貞一(以下被告貞一と略称する)は、被告会社の事務長兼指導部長の職にあり、被告会社の教習業務遂行上の総括責任者であるとともに労務担当重役として労務管理上の責任者、被告小路国明(以下被告国明と略称する)は、訴外株式会社商大自動車整備工業の従業員であったものである。
2 不法行為
(一) 本件不法行為に至るまでの経緯
(1) 前記組合の商大分会(以下分会と略称する)は、昭和三八年一二月に結成された。
(2) ところが、被告会社は、労働組合を極端に嫌悪し組合を壊滅させるため種々の不当労働行為を繰返し、それをめぐって地方労働委員会への救済命令申立事件や裁判所への仮処分請求事件が絶えず継続し、労使間に紛争が絶えなかった。
(3) 特に、昭和四七年春季賃上げ闘争の際には、被告会社が保護育成を図ってきた同盟交通労連関西地方本部商大自動車教習所労働組合(以下同盟労組と略称する)と分会とが共同闘争関係を結んで労働条件の維持向上を目指すや、被告会社は、右同盟労組を分裂させ、新たに御用組合を結成させてこれを育成し、右共同闘争関係を瓦解させるべく、組合員の組合からの脱退工作、団体交渉の拒否、組合活動の否定、賃金や一時金の差別的取扱いなどの手段をもって攻撃を加えている。
(4) また、被告会社は、組合の争議行為その他の組合活動を暴力をもって抑圧するために、大阪商業大学卒業の体育会系の学生を雇用したり、常時ないしは随時、同体育会系の学生をアルバイトとして雇用したりしている。
被告岡田及び同宇野は、そのために被告会社に雇用されたもの、同丸尾は、そのために被告会社にアルバイト学生として雇用されたものであり、いずれも組合に対して強い敵意を示しているものである。
(二) 被告らの不法行為
前記組合と同盟労組は、昭和四八年四月二一日午前一一時三〇分ころから、被告会社の肩書地(略)所在敷地内及びその東側道路上において統一ストライキを行ない、その終了後ひき続いてその場所において集会を開いていたところ、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生、同国明及び訴外木村敏明(分離前の共同被告)(被告会社の技能指導課所属アルバイト指導員かつ大阪商業大学の学生で拳法部員)は、被告会社の指示により、右敷地内に駐車中の組合の宣伝車を無断で敷地外に運び出そうとした。
そこで、原告らを含む両組合の組合員及び右ストライキを支援した労働者がそれに抗議をしたところ、同被告らはそれに言いがかりをつけて、原告らに対して共同(ないし共謀)して、次のような暴行を加えた。
(1) 被告岡田は、原告白倉に対し、左手拳をもって同原告の腹部及び胸部を数回突き、さらに、右手にタオルを巻いて、その手拳をもって同原告の左下顎部を殴打する暴行を加えた。
(2) 訴外木村敏明は、原告白倉に対し同原告の腹部を右手拳で空手の突きで強打し、原告秋田に対し同原告の持参していた写真機を取りあげようとし、同原告の右肩を左手で強くつかみ、被告丸尾とともに、同原告の左右から同原告をはさみつけるような形でその両腕をかかえこみ、右木村が同原告の右前方より右足でもって同原告の右膝付近を数回蹴りつけ、被告宇野は、同原告の後より右膝上でもって同原告の右足及び大腿部外側を二回蹴りつけ、さらに、被告国明もそれに加わって、同原告の着用していたネクタイを両手で強く引っ張って同原告の首を絞めるなどの暴行を加えた。
右暴行により、原告秋田は、全治一八日間を要する大腿部挫傷、上口唇部挫傷及び右膝部挫傷の傷害を負った。
(3) 被告丸尾は、原告白倉に対し、同原告の着用していた背広の襟を強くつかんで絞めあげ、更には、同原告の胸を強く突く暴行を加え、また 原告三谷に対し、「お前は絞めおとしたる」と叫びながら、左後方から右手でもって同原告の右肩をつかみ、左手で同原告の首を絞めるなどの暴行を加えた。
(4) 被告谷生は、原告三谷に対し、右手及び両手で同原告の胸部や肩などを強く突くなどの暴行を加えた。
(三) 被告らの責任
(1) 訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生及び同国明は、被告会社及び被告貞一の指示により、共同して故意に、前記暴行を加えたものであるから、民法七〇九条、七一九条一項に基づき、原告らが被った後記損害をその余の被告らと連帯して賠償する責任がある。
(2) 被告貞一は、右被告宇野らの暴行の現場において、ハンドマイクを使用して、故意に前記暴行を具体的に教唆、扇動、指揮したものであるから、民法七〇九条、七一九条二項に基づき、原告らの被った後記損害をその余の被告らと連帯して賠償すべき責任がある。
(3) 被告会社は、前記2の(一)のごとき反組合的方針のもとに、被告会社代表取締役谷岡剛、所長雄谷治男及び被告貞一らとの共謀により、被告岡田ら従業員をして故意に前記暴行を遂行させた。なお、前記被告岡田らの暴行々為が被告会社の意思に基づいてなされたことは、被告会社の組合に対する暴力支配及び敵視政策の推進役であった被告貞一が、ハンドマイクをもって右暴力行為を指揮扇動したことからも明らかである。
仮に、右共謀がなかったとしても、被告会社は、ストライキに対する対策を講ずるにつき、その余の被告らが組合員に対し暴行の挙に出ることのないよう指示して、前記のような暴行を惹起させないようにすべき義務があったのに、それを放任し、もって、故意又は過失により、原告らに対し、前記暴行による後記損害を被らせた。
したがって、被告会社は、民法七〇九条、七一九条一項に基づき、原告らが被った後記損害をその余の被告らと連帯して賠償すべき責任がある。
仮に右の責任がなくても、前記被告岡田らの暴行は、被告会社の従業員である被告会社を除く被告らが、勤務時間中に、被告会社内ないしはその付近において、被告会社のストライキ対策の一環として、あるいはそれと不可分密接に行なわれたものであるから、被告会社の事業の執行につき行なわれたものというべきであって、被告会社は、民法七一五条に基づき、原告らが被った後記損害をその余の被告らと連帯して賠償すべき責任がある。
3 損害
(原告秋田の損害)
(一) 原告秋田は、前記傷害を負い、訴外八戸の里病院に通院して治療をし、次の出費を余儀なくされた。
(1) 初診料 金二〇〇円
(2) 診断書料(二通)金一〇〇〇円
(3) 通院交通費 金五四〇円
但し、自宅から右病院まで近鉄線「ひょうたん山」駅と「八戸の里」駅間片道四五円のところを六日間通院
(二) 原告秋田は、右傷害を治療するため、昭和四八年四月二三日から同月二八日までの六日間休業し、その結果次のとおりの得べかりし利益を喪失した。
(1) 被告会社より控除された精勤手当 金四八〇〇円
原告秋田は、一日八時間労働のところ、六日間の休業により合計四八時間休業したことになる。そして、同原告は、通常一ケ月金一万八八三八円の精勤手当の支給を受けていたところ、被告会社における従業員の一ケ月の所定内就業時間は、時間短縮の結果一八七・五時間であったから、同原告の精勤手当は、一時間当り一〇〇円となり、したがって、同原告は右休業により一〇〇円に四八時間を乗じた金四八〇〇円の精勤手当の支給を受けることができなくなった。
(2) 残業できなかったことによる損害 金四九七六円
原告秋田は、昭和四八年二月に四二時間、同年三月に五六時間、同年四月に二四時間の各残業をし、一ケ月平均三〇時間(一日平均一・三時間)の残業をしてきたところ、残業一時間当りの手当は、基準内賃金九万五八三八円を前項の一ケ月の所定内就業時間一八七・五時間で除し、割増率一・二五を乗じた金六三八円となる。したがって、原告秋田は右金六三八円に前記一日平均残業時間一・三時間と休業日数六日とを乗じた金四九七六円の残業手当の支給を受けることができなかった。
(三) 慰藉料 金五〇万円
原告秋田は、前記傷害を負ったことにより、多大の肉体的苦痛を被ったうえ、六日間の休業を余儀なくされ、他方前記春季賃上げ闘争のもりあがっている最中に、組合員としての団結権を著しく侵害されて多大の精神的苦痛を被ったところ、それらの苦痛は右金額をもって慰藉されるのが相当である。
(四) 弁護士費用 金一〇万円
原告秋田は、原告訴訟代理人弁護士蒲田豊彦、同河村武信らに本件訴訟を委任し、同弁護士らに右金額の弁護士費用を支払うことを約した。
(原告白倉、同三谷の損害)
(一) 慰藉料 各金一〇万円
原告白倉及び同三谷は、それぞれ前記暴行を受け、しかも、前記春季賃上げ闘争の最中に組合員としての団結権を著しく侵害されて多大の精神的苦痛を被ったところ、その苦痛はそれぞれ右金額をもって慰藉されるのが相当である。
(二) 弁護士費用 各金二万円
原告白倉及び同三谷は、原告訴訟代理人弁護士蒲田豊彦、同河村武信らに本件訴訟を委任し、同弁護士らに、右金額の弁護士費用を支払うことを約した。
4 よって、被告らに対し連帯して、原告秋田は右共同不法行為に基づく損害賠償金六一万一五一六円、同白倉及び同三谷は同じく各金一二万円及び各金員に対する本件訴状送達の日の翌日である被告丸尾に対しては昭和四九年一〇月五日から、被告貞一に対しては同年一二月二〇日から、被告国明に対しては昭和五三年三月二一日から、その余の被告らに対して昭和四九年一〇月四日から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告らの認否及び主張
(被告会社)
1 請求の原因1の(一)の事実は認める。
同(二)の事実中、被告会社、被告宇野及び同岡田に関する部分は認めるが、その余の事実は否認する。
2 同2ないし4は争う。
(被告宇野)
1 請求の原因1の(一)の事実は知らない。
同(二)の事実中、被告宇野に関する部分は認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2ないし4は争う。
(被告岡田)
1 請求の原因1の(一)の事実は知らない。
同(二)の事実中、被告岡田に関する部分は認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2ないし4は争う。
(被告丸尾)
1 請求の原因1の(一)の事実は知らない。
同(二)の事実中、被告丸尾に関する部分は認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2ないし4は争う。
(被告谷生)
1 請求の原因1の(一)の事実は知らない。
同(二)の事実中、被告谷生に関する部分は認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2ないし4は争う。
(被告貞一、同国明)
1 請求の原因1の(一)の事実は知らない。
同(二)の事実中、被告貞一が被告会社の事務長兼指導部長の地位にあることは認めるが、その余の事実は否認する。被告貞一は、被告会社の自動車教習所における教習業務の総括責任者ではなく、また、被告会社の労務担当重役でもなかった。
2 同2ないし4は争う。
(被告ら)
1 本件は、昭和四八年四月二一日一二時五五分から二〇時二〇分まで、原告らを含む分会組合員六名と商大労働組合員六名とがストライキを行ない、多数の支援組合員が座り込みをして被告会社の教習業務を妨げたことに端を発する。
即ち、同日一二時一五分の教習が終了し、四〇分間の休憩に入る前から、支援労働組合員が続々と路上教習発着場及び組合事務所付近に集合し、更にはそのすぐ近くのレストラン前庭にスクールバスを横付けするなどして集まってきた。組合は、同日一二時五五分の教習開始直前である同日一二時四〇分に「一二時五五分から終日ストライキに入る」旨の通告をするとともに、五、六列の人垣をつくり、構内に座り込んだ二五〇名前後の支援労働組合員によって、路上教習車の出入口を完全にふさぎ、一部支援労働組合員によって、北側ガレージの路上教習車が発進しないよう見張った。また組合は、組合の宣伝車をなかば通路上に残したまま前記出入口を封鎖するような状態に駐車させたうえ、組合の新島委員長らがラウドスピーカーによって間断なく宣伝放送を行なった。更に、座り込んだ組合員の列外には、指揮者やカメラ班を配置したほか、共産党市会議員二名及び弁護士二名を参加させ、意図的に被告会社の路上教習を阻止するなどの業務妨害をした。
被告会社は、右ストライキに対しては、指導員の配車替え及び補欠要員を充てることによって教習業務の継続をはかるとともに、スピーカーを通じて組合員らに対して直ちに構内から退去するよう再三再四要求したが、原告らは妨害を止めることをせず、そのため道路に出ようとした路上教習車一六台はすべて発進することができず、発着場に閉じ込められたままとなった。
被告会社は、なおも文書をもって退去を求める警告を発したが、原告らは右妨害を止めなかった。
そこで、被告会社は、教習生の安全を第一に考え、教習の強行を避け、専ら組合に対して右妨害を止めるよう説得に努めたところ、組合は、同日一三時二〇分集会を正面玄関前に移動させた。
しかしながら、そのときは教習開始時刻を既に三〇分経過しており、残った二〇分では右一六名の路上教習を実施することはできなくなり、後日への変更を余儀なくされ、そのため教習生と被告会社とは多大の損害を被った。
2 前記集会中、前記宣伝車は、無人のまま放置され、完全に通行を妨害するような状態にあったので、被告会社は、組合の書記長原告三谷の了解を得たうえ、被告会社の従業員の手でそれを交通の邪魔にならない北側に手押しで移動させ始め、その後かなり移動させた際に、集会中の組合員の一部が、「ドロボー、ドロボー」と叫びながら、無統制状態で、移動中の右車輛に一団となって迫り、そのため混乱状態となった。しかし、その際被告らにおいて暴行を加えたことはない。本件のトラブルの仕掛人は、組合であり、もみ合い、小ぜり合いの責任はむしろ組合または原告らにあるというべきである。
3 なお、被告岡田は、原告白倉を知らないし、同原告に対し暴行を加えたことはない。
被告丸尾は、前記宣伝車を移動中、組合員らからの危険にさらされていたもので、「おまえ絞めおとしたる」と言ったり、一面識もない原告秋田に対し暴行を加えたことはない。
被告谷生は、被告会社のロビー内の受付要員として右混乱状態を目撃したのにすぎず、面識のない原告三谷に対して暴行を加えたことはない。
被告貞一は、ハンドマイクをもって、教習生に対し、通常の通り、業務を行なうことを告げ、組合の争議行為にまき込まれないように注意、警告をし、さらに、原告らの右のごとき無秩序な行動に対し、退去を要請したのにすぎず、暴力行為を指揮したことはない。
被告国明は、他会社の従業員であり、分会の組合員と面識はなく、原告秋田に対し暴行を加えたことはない。
第三証拠(略)
理由
一 請求の原因1の(一)の事実は、原告らと被告会社との間では当事者間に争いがなく、原告らとその余の被告との関係では、(人証略)によりこれが認められ、右に反する証拠はない。
同(二)の事実中、被告貞一が被告会社の労務担当重役であることを除き、原告らと当該被告との間では当該被告の地位に関する部分につき争いがなく、原告とその余の被告との関係でも、(人証略)の結果により被告貞一が被告会社の労務担当役であることを除くその余の請求原因1の(二)の事実が認められ、右に反する証拠はない。なお、被告小路貞一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告貞一は当時被告会社の労務担当重役ではなかったことが認められる。
二 そこで次に、訴外木村敏明及び被告宇野やその他の被告らが原告らに対し、原告ら主張の如き暴行傷害を与えたか否かについて判断する。
成立に争いのない(証拠略)により昭和四八年四月二一日に被告会社敷地付近を撮影した写真であることが認められる(証拠略)、同日同場所付近を撮影した写真であることにつき争いのない(証拠略)に(人証略)の結果を総合すると、次の各事実が認められ、(人証略)中、右に反する部分は右各証拠に照らし措信できず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
1 被告会社と分会及び同盟労組とは、昭和四八年春季賃金引上げ等をめぐって紛争状態にあったところ、分会及び同盟組合は、同年四月一七日ころ、被告会社に対し、同年同月二一日にストライキを行なう旨予告し、同月二一日午後零時四〇分ころ、文書(<証拠略>)をもって被告会社に対し、同日午後零時五五分から終日ストライキを行なう旨通告し、それを実施した。
分会及び同盟労組の組合員及び支援者合計約二〇〇名は、被告会社の同月二一日午後零時五五分開始の教習が始まるころから、路上教習車の出入口となっている被告会社正門前に宣伝車を駐車させ、その付近に人垣を組んで座り込み、路上教習のため道路へ出ようとしていた路上教習車の通行を阻み、同日午後一時一〇分ないし二〇分ころになって右路上教習の実施が不能となるや、被告会社正面玄関前において集会を開いた。
2 これより先、被告会社は、組合の右ストライキ実施にも拘らず、右路上教習を実施しようと考えていたので、被告会社の指導部長であった被告貞一が右組合員らに対し人垣を解いて路上教習車の通行をさせるよう説得ないしは警告をしたが、組合員らがそれに応じなかったところ、その後被告会社の総務課長補佐の被告宇野が原告三谷に対し、被告会社の路上教習車の出入を妨げていた組合の宣伝車を移動させるよう交渉した。しかし、組合側において自から右宣伝車を移動させようとしなかったので、被告宇野は、被告会社の従業員である訴外木村敏明、被告丸尾、訴外大野某らとともに、自ら右宣伝車を手で押して北方に移動させ始めた。
3 それを目撃して、被告宇野などが組合員に無断で右移動をしているものと思った原告白倉は、それを追いかけて被告宇野などに抗議したところ、右宣伝車の後部を手押ししていた右木村は、それに立腹して、そのころ被告会社北東の道路上において同原告の腹部を手拳で一回突く暴行を加えた。
4(イ) 右状況を目撃した原告三谷、同秋田その他組合側の数名がその場へ駆けつけ、右暴行につき右木村に抗議するとともに写真撮影をしたところ、前記3の原告白倉が暴行を受けた場所から若干北に移動した場所において、右木村は、原告秋田の右膝付近を右足で足蹴にし、被告宇野は、同原告の背後からその襟首付近をつかみ、大腿部を右足で膝蹴にし、被告国明は、同原告の着けていたネクタイを引張るなどの暴行を加え、もって原告秋田に対し全治約一八日間を要する右大腿部挫傷及び右膝部挫傷等の傷害を負わせた。(なお、原告主張の如く、被告丸尾が右木村敏明とともに、原告秋田の左右からはさみつけるような形でその両膝を抱え込んだようなことはない。)
(ロ) そのころ、前記(イ)記載の場所付近において、原告三谷が、原告秋田に対する被告宇野らの前記暴行をやめさせようとして右暴行の現場に近付いた際、被告丸尾が右原告三谷に対し、「絞め殺してやる。」などと言いつつ、手でその首を強く締める等の暴行を加えた。
(ハ) さらに、そのころ、前記(イ)記載の場所付近において、被告丸尾の原告三谷に対する前記(ロ)の暴行をやめさせようとした原告白倉に対し、被告丸尾が原告白倉の襟を掴んで絞めつけながら腹部を突く等の暴行を加え、被告岡田が原告白倉の下あごを手拳で数回殴打するなどの暴行を加えた。(なお、原告主張の如く、被告岡田が原告白倉の胸腹を突いたことはない。)
5 次に、原告三谷などが被告宇野などに対し右暴行について抗議しようとすると、同被告などはその場を逃れ、同原告などがそれを追跡して被告会社校舎北側付近に至り、さらに同被告などに抗議しようとしたところ、そのころ、右同所において、その場に居合わせた被告谷生は、原告三谷の胸部を強く突く暴行を加えた。
三 ところで、原告らは、前記二に認定の3、4の(イ)ないし(ハ)、5の各暴行は、いずれも、訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生及び同国明が、被告会社及び被告貞一の指示により、共同(ないし共謀)してなしたものであり、殊に、被告貞一は、被告宇野らの前記暴行現場において、ハンドマイクを使用して、前記各暴行を具体的に教唆、扇動、指揮をしたと主張しているが、(証拠略)はいずれも後記各証拠に照らしたやすく信用できず、他に右原告らの主張事実を認めるに足る証拠はない。
かえって、(証拠、人証略)の結果(但し、以上のうちいずれも前記信用しない部分は除く)を総合すると、訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生、同国明の原告らに対する前記各暴行は、いずれも、被告宇野が組合の宣伝車を自らの手で移動させようとしたことに端を発して、偶発的になされたものであること、したがって、右各被告らが事前に、原告らに暴行を加えることを共謀したことはないし、被告会社や被告貞一が訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生、同国明に対し、前記各暴行行為をするよう指示をしたことはないこと、ただ、当時被告会社の指導部長であった被告貞一は、組合が本件事件の当日のストライキを実施する以前の右同日午後零時過ぎころ、被告会社の構内放送用マイクを用いて、教習生に対し、「組合がストライキを行なっても、被告会社は、これに参加しない従業員で教習を行なうので、秩序正しく、整然と教習を受けて欲しい。」旨の要請をし、さらに、組合に対しては、「教習生及び教習関係者以外は、被告会社構内に立入らないで欲しい。」旨の要請をしたこと、ところが、その後、分会がストライキを実施して多数の組合員等が被告会社出入口付近の構内に人垣を組み、被告会社の路上教習車が外に出られないようにしたので、被告貞一は、ハンドマイクをもって、繰返し、組合員等に対し、右人垣を解いて退去するよう要請したことがあるに過ぎず、右ハンドマイクをもって、訴外木村敏明や被告宇野らに対し、原告ら主張の如く暴行をするよう指示し、教唆扇動をしたようなことはないこと、なお、訴外木村敏明や被告丸尾は、当時学生で被告会社にアルバイトとして働いていたが、右木村らは、被告会社が、本件事件当日の分会のストライキに備え、暴力で組合を弾圧するためわざわざ雇用したものではないし、また、右当日、被告会社が右ストライキに備え、多数の商大の学生を動員したようなこともないこと、以上の事実が認められる。
なお、原告らは、「被告会社は、訴外木村敏明や被告宇野らが前記暴行に出ることを放任し、故意又は過失により、原告らに対し、右暴行による損害を被らせた。」と主張しているが、被告会社自身(すなわち被告会社の代表者)が、訴外木村敏明や被告宇野らにおいて前記各暴行々為に出ることを知りながらこれを放任していたとの事実を認め得る的確な証拠はない。
したがって、訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生及び同国明が被告会社及び被告貞一の指示により共同して前記各暴行をしたものであり、被告らは、右各暴行傷害の全部につき、民法七〇九条七一九条の不法行為責任があるとの原告らの主張は失当である。
四 次に、前記二に認定した事実によれば、右二の4(イ)の原告秋田に対する暴行傷害は、訴外木村敏明、被告宇野及び同国明ら三名による共同不法行為を構成するものというべきであるから、被告宇野、同国明は、訴外木村敏明とともに、民法七〇九条七一九条一項により、各自連帯して、原告秋田に対し、同原告が右暴行傷害により被った損害を賠償すべき義務があり、また、前記二の4(ハ)の原告白倉に対する暴行は、被告丸尾及び同岡田の両名による共同不法行為を構成するものというべきであるから、右被告両名は、民法七〇九条七一九条一項により、各自連帯して、原告白倉に対し、同原告が右暴行により被った損害を賠償すべき義務があり、さらに、民法七〇九条により、原告三谷に対し、被告丸尾は、原告三谷が前記二の4(ロ)の暴行によって被った損害を、被告谷生は原告三谷が前記二の5の暴行によって被った損害を、それぞれ賠償すべき義務がある。
しかし、被告らには、右以外に、原告らに対し、民法七〇九条七一九条による損害賠償責任はないものというべきである(但し、被告会社の民法七一五条による損害賠償責任については、後記の通りである)。
五 そこで次に、訴外木村敏明及び被告宇野やその他の被告らの前記暴行傷害につき、被告会社に民法七一五条の損害賠償責任があるか否かについて判断する。
(証拠、人証略)によれば、本件事件のあった当日、訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生らは、分会のストライキに備えて、被告会社のために右ストライキに適切に対応し、被告会社の自動車運転教習業務の円滑な遂行をはかる任に当っていたこと、ところで、右同日、組合は、ストライキを実施する以前から被告会社の出入口付近に宣伝車をとめて被告会社の路上教習車の出入等を妨げていたので、被告会社の教習所長雄谷治男が被告宇野に対し、組合と交渉して右宣伝車を他に移動させるよう指示したこと、その後、被告宇野は、組合がストライキに入った後一旦作った人垣を解いたので、原告三谷に対し、右宣伝車を他に移動させるよう交渉したが、同原告がこれに応じなっかたので、被告宇野が、訴外木村敏明ら被告会社の従業員の協力を得て、被告会社正門における路上教習車の通行、その他一般の人車の通行の確保をする目的で右宣伝車を移動させたものであることが認められ、また、右宣伝車の移動に端を発し、右宣伝車の移動を阻止しようとする原告らなどと、それを遂行しようとする被告宇野ら会社の従業員との間の応酬が高じて訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生、同国明らが、原告らに対し、前記認定の各暴行を加えたものであることは前記二に認定のとおりである。しかして、右事実を総合すると、右暴行傷害により原告らの被った損害は、被告会社の業務である自動車運転教習業務の遂行及び分会のストライキ対策の任にあたっていた訴外木村敏明、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生、同国明らなどが、被告会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって生じたものというべきであるから、民法七一五条にいう被用者が使用者の事業の執行につき第三者に加えた損害というべきであって、被告会社は右同条により右暴行及び傷害によって原告らの被った損害を賠償すべき責任がある(最高裁判所昭和四四年一一月一八日判決・民集二三巻一一号二〇七九頁、同昭和四六年六月二二日判決・民集二五巻四号五六六頁各参照)。
六 損害
1 原告秋田の損害(但し弁護士費用は除く)
(一) (証拠、人証略)の結果によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ) 原告秋田は、訴外木村敏明、被告宇野、同国明らの前記暴行により傷害を受けたので、昭和四八年四月二一日から同年五月二日まで、東大阪市内の八戸の里病院に通院してその治療を受けた。そしてそのために、同原告は、初診料金二〇〇円を支払った外、診断書料金一〇〇〇円(一通金五〇〇円の割合による二通分)を支払い、また、現実に右病院に六日間通院したため、近鉄線ひょうたん山駅から八戸の里駅間の電車賃計金五四〇円(往復金九〇円の割合による六回分)を要した。
(ロ) 次に、原告秋田は、右傷害のため、昭和四八年四月二三日から同月二八日まで被告会社に出勤して稼働することができなかったため、右期間中に稼働して得べかりし精勤手当金四八〇〇円(一時間当り金一〇〇円の割合による四八時間分)、及び、残業手当金四九七六円(一時間当り金六三八円の割合による六日分)の支給を受けることができず、右同額の損害を被った。
(二) 原告秋田は、右傷害を受けたことにより、多大の精神的苦痛を受けたものというべきところ、右暴行及び傷害の態様・程度及びそれに至った経緯等を斟酌すると、同原告が右傷害によって被った精神的苦痛が慰藉される額は、金五万円と認めるのが相当であり、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 原告白倉及び同三谷の慰藉料
前記二の3、4の(ロ)(ハ)、5の各暴行の態様程度及びそれに至った経緯等諸般の事情を斟酌すると、原告白倉及び同三谷は、右各暴行により相当の精神的苦痛を受けたものというべきところ、右精神的苦痛が慰藉さるべき額は、原告白倉については、前記二の3の暴行につき金一万円、同4の(ハ)の暴行につき金一万円、原告三谷については、前記二の4(ロ)の暴行につき金一万円、同5の暴行につき金一万円と認めるのが相当であって右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 弁護士費用
原告らが、本件訴訟を弁護士に委任することがやむをえなかったことは本件訴訟の経緯に徴し明らかであるところ、本件事案の難易、本訴において認容される額等諸般の事情を総合すると、原告らの支払う弁護士費用中、本件事件と相当因果関係のある損害は、原告秋田の関係では金一万円、原告白倉、同三谷の関係では各金五〇〇〇円であり、かつ、原告白倉の関係では、そのうち半額は訴外木村敏明が被告会社と連帯(不真正連帯)して負担すべきものであり、原告三谷の関係では、被告丸尾及び同谷生が平等の割合で被告会社と連帯して負担すべきものと認めるのが相当である。
七 結論
以上認定したところからすれば、前記各不法行為による損害賠償として、被告会社、被告宇野、同国明は、連帯(不真正連帯)して原告秋田に対し、金七万一五一六円及び内金六万一五一六円に対する被告会社及び被告宇野については訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一〇月四日から、被告国明については同じく昭和五三年三月二一日から、また、右被告三名とも内金一万円(弁護士費用)については本裁判確定の日の翌日から(原告が現在までに弁護士費用を支払ったことを認め得る証拠はなく、また、未払の弁護士費用の弁済期は本裁判確定の日に到来するものと解する。=東京高裁昭和五二年四月二八日判決・判例時報八五九号四四頁参照)右各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告白倉に対し、被告会社は金二万五〇〇〇円、被告岡田、同丸尾は、連帯(不真正連帯)して金一万二五〇〇円、及び、被告会社については内金二万円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一〇月四日から、内金五〇〇〇円(弁護士費用)については本裁判確定の日の翌日から、被告岡田については内金一万円に対する訴状送達の日の翌日であることが明らかな昭和四九年一〇月四日から、被告丸尾については内金一万円に対する同じく昭和四九年一〇月五日から、右被告両名とも内金二五〇〇円(弁護士費用)に対する本裁判確定の日の翌日からそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告三谷に対し、被告会社は金二万五〇〇〇円、被告丸尾、同谷生は各自金一万二五〇〇円、及び、被告会社については、内金二万円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一〇月四日から、内金五〇〇〇円(弁護士費用)に対する本裁判確定の日の翌日から、被告丸尾については、内金一万円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一〇月五日から、被告谷生については同じく昭和四九年一〇月四日から、右被告両名とも内金二五〇〇円(弁護士費用)に対する本裁判確定の日の翌日からそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よって、原告らの被告らに対する本訴請求は、被告会社、被告宇野、同岡田、同丸尾、同谷生、同国明に対して右各金の支払を求める限度で正当であるから右の限度で認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 草深重明 裁判官 小泉博嗣)